本年度は、前年度の研究成果を踏まえ、以下の研究を実施した。(1)ゼオライト細孔内に高濃度のボロンを吸蔵させた際に生じる試料の変質を避けるため、中性子コンバーターとしてボロンのほかにリチウムを導入した試料を作製する。(2)中性子コンバーターを導入したゼオライト蛍光体の光学特性を紫外線照射下において調べ、コンバーター導入による蛍光特性への影響を明らかにする。(3)名古屋大学大学院工学研究科において、中性子線源(カリホルニウム252)、ガンマー線源(セシウム137)を用いた照射実験を行い、中性子線とガンマー線に対する蛍光特性を調べ、中性子場での実用性を検討する。 研究の結果、以下の知見が得られた。(1)リチウム中性子コンバーターの導入は、ゼオライトのイオン交換能を利用して行った。リチウムイオンの導入は可能であったが、ゼオライト中に予め存在するナトリウムカチオンとリチウムイオンの交換性が比較的低いため、高濃度の導入は不可能だった。(2)紫外線照射下で作製した試料の蛍光特性を評価したところ、リチウムのみを導入した試料、ボロンとリチウムを同時に導入した試料とも、それらを導入したことで銀ゼオライトが本来有する蛍光特性に影響を与えないことが明らかになった。軌道放射光からの真空紫外光を用いて、中性子コンバーターと中性子線との相互作用を想定した蛍光特性実験も行ったが、同様であった。(3)作製した試料が中性子線に対して応答することが確認できた。この結果は、ゼオライト輝尽性蛍光体を用いた中性子イメージングプレートの実現の可能性を示唆したと言えるが、その程度は未だ十分ではなく、今後、中性子コンバーターの導入量など試料の作製法に改善が必要と考えられた。
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