本年度は強誘電体ナノ構造体の作製にあたり、イオンインプランテーションを用いた手法の実現性の可能性を探った。原子力機構高崎量子応用研究所に設置されているイオン照射装置(TIARA)を用いる事によって、ほぼ全ての元素のイオン照射が可能である。イオンビームは通常の蒸着に比べるとマイグレーションエネルギーが非常に高く、そのためインプラントした金属元素が凝集すると考えられている。酸化物作製においてはインプラントする母物質中の酸素と反応することによって、酸化物が形成されると考えられている。そこで、まず、インプラントした元素の反応経路を放射光X線を用いて探ることとした。そのためにはできるだけ重い元素をイオン照射によってインプラントし、またインプラントされる母材にはできるだけ軽い酸化物材料を選択する必要がある。予備実験として種々の母材へのイオン照射を行った結果、TiO_2を母材とすることとした。そしてインプラントする金属としてビスマスを選択し、イオンインプランテーションを用いた酸化物作製の実証実験を行った。その結果、照射されたビスマスイオンは金属状態でTiO2中にはとどまらず、直ちにTiO_2の酸素を奪って酸化ビスマスとなっていることがわかった。そしてアニールによってさらに周囲のTiO_2と反応し、パイロクロア型のBi_2Ti_2O_9が生成されるという反応経路を突き止めた。
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