研究概要 |
イオンビームを集束するガラスキャピラリーは、出口部に薄い蓋を設けることによりその射出口を液体中へ挿入することが可能である。このことよりこれまで技術的制約から難しかった固体-液体界面におけるイオンビームによるエネルギー付与と化学反応を利用した新しい表面修飾法や加工法に関する研究への道を開いた。本研究では、これまで調べられていない固体一液体界面においてイオンが引き起こす現象を明らかにし、上記の応用への足掛かりとすることを目的とした。本年度前半においては既存の汎用ビームラインを用いて、ガラスキャピラリーを液体照射容器の側壁から0リングを介して液中へ挿入する形態の液体中照射システムを構築した。試料はXYZ微動ステージによって保持し、上方から液体中に浸漬する形態とした。集束ビームを液相中に照射する実験では、200μm径のビーム束で2nA (3MeV,H^+)以上のイオン電流が得られている。本照射システムの完成後、有機モノマー水溶液中で高分子表面を照射する実験を行った。照射中はステージを走査する方法でパターンを描画した。アクリル酸モノマーを用いた照射試験では、疎水性のポリエチレンあるいはポリテトラフルオロエチレン表面へのコーティング描画に成功し、照射部分は親水性へと変化した。表面分光(顕微FT-IR)によって照射部分にはポリアクリル酸が生成していることが明らかになり、放射線グラフト重合が微小領域で高速に進んでいることが示された。その後、モノマー濃度、照射電流値、照射時間等のパラメータと、コーティング生成量との関係詳細に調べた。
|