本年度は、過去二年で取得した実験データを基に幼児の調整系能力に関する評価方法に総合的な解析を加え、体力医学および発育発達関連の学会において研究発表を行った。 調整系能力のうち、視覚刺激に対して全身的に反応する課題での反応時間は、従来測定されてきた幼児を対象とした体力測定項目のほとんどと有意な相関が認められた。敏捷性評価は、その場での跳躍動作を用いたことから、投能力といった上肢を用いる動作のパフォーマンスとは関連が低いことが予想されたが、投能力とも有意な相関関係が確認されたことから、幼児の身体能力においては、調整系能力が高いことが、多様な運動能力の発達に影響する可能性が示唆された。これは、未就学児童の運動能力は、分化された形ではなく、包括的に発達することを示唆する結果であった。なお年長児童(5~6歳)と小学校高学年児童(11~12歳)の全身反応時間を比較したところ、小学生では幼児に比べて有意に反応時間は短縮したが、幼児および小学生の中での性差は確認されなかった。 また衝撃緩衝性については、小学校高学年および成人と比較しても、ドロップ着地時の地面反力鉛直方向成分は、体重の約5~6倍と高値を示し、衝撃緩衝性の未発達が示唆された。また運動能力の高い児童に、衝撃緩衝性が高い傾向が確認されたことから、未就学児童の運動傷害発生は、運動能力が高い児童で危険性が高いことが示唆された。また敏捷性や平衡性といった調整系能力では確認されなかった有意な性差が、衝撃緩衝性では確認されたことから、安全な運動を実施するうえでは、児童の性差を考慮する必要性が考えられた。
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