近年の子ども達の学習障害や情緒障害の原因は何か? 私たちは環境中の化学物質が脳において正常な神経伝達系を乱す可能性があり、さらに脂質栄養学の研究から脳神経系を構築する重要な成分である高度不飽和脂肪酸の不足が、神経伝達系に異常をもたらすことを報告している。本研究では脂肪酸や亜鉛がモノアミンオキシダーゼA(MAOA)の酵素反応に及ぼす影響をin vitroで検討する一方、実際にマウスに食餌で与え影響を検証する。 まずin vitroの系で、リコンビナントMAOAと結合することにより発光する基質を用いて、MAOA活性の評価を行った。酵素と基質存在下にクロルジリン(MAOAの特異的阻害剤)、安息香酸亜鉛、塩化亜鉛を濃度をふって加えた時の発光値を測定し、阻害効果をみた。この結果、クロルジリンは1nM~1uMで特異的に阻害が認められ、安息香酸亜鉛は1mMでやや阻害が見られた。塩化亜鉛はこの中間で1uM~1mMで明らかにMAOAを阻害した。現在この系にn-3/n-6系脂肪酸を加え、MAOA活性に与える影響を検証中である。今後はMAOAが局在するミトコンドリア外膜の環境を模して、リポソーム中のMAOAで脂肪酸の影響を調べる。 さらに、安息香酸亜鉛、安息香酸ナトリウム、塩化亜鉛が及ぼす影響をマウスを用いて検証した。それぞれを含む飼料でマウスを飼育し、産まれた子マウスが5~7週令に達したところで迅速に断頭、脳より視床下部、扁桃体、海馬を分取して直ちに液体窒素にて保存した。各部位よりミトコンドリアを調製し、MAOA活性を測定した結果、海馬、扁桃体に活性が強く、ウェスタンブロット法でもっともMAOAの存在量が多かった視床下部での活性は低かった。また、これら3部位よりRNAを調製し、マイクロアレイ法にて、飼料中の安息香酸亜鉛、安息香酸ナトリウム、塩化亜鉛が子マウスに与える影響を解析中である。
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