思春期から成人期前期に発生するがんは、幼児期や成人期後期とは異なるパターンを示すことが分かってきた。本研究の目的は、思春期の放射線被ばくとその後の化学発がん物質との複合影響について、両者のばく露のタイミング(間隔)に着目し、発がん率や発がん機構の変動を明らかにすることである。 これまでの我々の研究から、①4週齢マウスにX線を照射し3日後(0週間隔)から化学発がん物質エチルニトロソ尿素(ENU)を投与すると96%に胸腺リンパ腫(TL)が発生するが、4週間隔では60%に低下すること、②X線単独ばく露で誘発されたTLで高頻度(50%)に見られる11番染色体のLOH(Loss of heterozigosity)が、0週間隔では有意に低い(15%)ことがわかっている。前年度までの結果からは、発がん率は8週間開けても高く、放射線の影響が残ること (22年度)、ばく露のタイミングによりLOH頻度が変わることが示された(23年度)。 24年度は、X線誘発とENU誘発のTLで変異スペクトルが異なることがわかっているがん抑制遺伝子Ikarosの変異解析を行った。Ikarosに塩基置換変異を持つTLの割合は、ばく露間隔が短い群(≦2週間隔)では高く、長い群(≧4週間隔)では低かった。さらに8週間隔群ではスプライシング異常を持つTLの割合が他の群より高いなど、ばく露のタイミングによってIkarosの変異スペクトルが異なることが明らかとなった。以上のことから、ばく露間隔が異なるとTLの発生率だけでなく発がん機構も変動することが示唆された。 これらの結果を「The 22nd Biennial Congress of the European Association for Cancer Research」にて発表した。
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