本研究では,前年までに,病院に保管されている膨大なCT画像データからディジタル人体ファントムを形成し,そのディジタルファントムから得られたシミュレーション画像を用いることで医療被ばくの最適化を試みてきた. 放射線画像の質は,最終的には医師の読影によって病変部が見落されるかどうかに依存するので,その最適化のためには,撮影時に照射する放射線量を低減し,その結果として,医師の病変の見落としの可能性が無視できるレベルを確定することである.そして,その評価を行う手法としては,現時点ではROC解析がもっとも適していると考えられている.しかし,統計的な理論や統計処理ソフトウエアは存在するものの,ROC実験に必要な知識をまとめた教科書的な文献もソフトウエアも存在しないのが現状であったため,平成23年度はROC解析に必要なソフトウエアの開発を主に行った. 以上の検討を経て,平成24年度は医療被曝の低減が重要とされているCT検査と乳腺撮影における被ばく線量の低減に関して,ファントム像によるROC実験を実施した.実験の結果,CT撮影においては,線量を2/3,1/2と低減すると統計的に有意に低コントラスト信号の検出能が低下することが証明されたが,乳腺撮影では通常撮影の2/3の線量でも低コントラスト信号の検出においては差が生じないことが示された.また,臨床CT画像を用いたROC実験により,線量低減の影響を評価するため,通常線量で撮影されたCT画像から低線量CT画像をシムレーションにより再構成する手法を開発した.
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