まず、脳主幹動脈閉塞性疾患により脳梗塞を呈した患者において、神経細胞障害を反映する中枢性ベンゾジアゼピン受容体(BZR)低下が、脳梗塞のない大脳皮質領域に認められるか、認められた場合大脳皮質機能低下と関連しているか、横断的に検討した。一側の内頸あるいは中大脳動脈に狭窄または閉塞を有する患者60例を対象とし、ポジトロンCTおよび^<15>O標識のガスを用いて、脳血液量、脳血流量、酸素摂取率、および酸素代謝率を、^<11>C標識のフルマゼニールを用いて中枢性ベンゾジアゼピン受容体密度を測定した。病変側の前および中大脳動脈領域大脳皮質において、健常者と比較したBZR低下の程度を示す、abnormally decreased BZR indexを計算し、脳循環代謝パラメータとの関係を検討した。また、大脳皮質機能評価として、ウィスコンシンカード分類テスト(WCST)を施行し、その成績とBZR indexの関連を検討した。その結果、BZR indexは脳酸素摂取率の上昇(脳循環障害の程度の指標)と関連しており、大脳皮質では、慢性脳虚血そのものが、BZR低下の原因であると考えられた。また、WCST達成カテゴリー数低下群39例では、正常群21例と比較してBZR indexが前大脳動脈領域で増加していた.中大脳動脈領域のBZR indexは、左血管病変患者28例を対象としたとき、成績低下群(19例)で正常群9例と比較して有意に増加していた。すなはち、BZR低下として検出される大脳皮質神経細胞障害は大脳皮質機能低下(遂行機能低下)の原因になると考えられた。脳梗塞のない大脳皮質領域においては、神経連絡を介する二次的神経細胞障害(経神経性神経細胞変性)よりは、慢性脳虚血そのものによる一次的神経細胞障害が、神経細胞障害の原因としては重要であり、その予防は、大脳皮質機能障害(認知機能障害)の予防につながると考えられる。
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