昨年、一昨年度同様、脳主幹動脈閉塞性疾患により脳梗塞を呈した患者において、神経細胞障害を反映する中枢性ベンゾジアゼピン受容体(cBZR)低下が、脳梗塞のない領域に認められるか、認められた場合同部位の機能低下と関連しているか、横断的検討を継続した。また、少数例で縦断的に検討した。内頸あるいは中大脳動脈に狭窄または閉塞を有する患者を対象とし、ポジトロンCTおよび15O標識のガスを用いて、脳血液量、脳血流量、酸素摂取率、および酸素代謝率を、11C標識のフルマゼニールを用いてBZR密度を測定した。大脳機能評価として、ウィスコンシンカード分類テスト(WCST)を施行し、その成績とBZR 密度の関連を検討した。その結果、病変側の大脳皮質領域に加えて、脳主幹動脈病変により脳虚血を生じないと考えられる視床で、BZR密度と酸素代謝の低下が認められ、両者の低下は並行しており、経神経性の神経細胞障害が酸素代謝低下の原因と考えられた。WCSTの成績低下とBZR 低下との相関は、大脳皮質領域では統計学的に有意であったが、視床では有意ではなかった。神経連絡を介する視床の二次的神経細胞障害(経神経性神経細胞変性)は大脳機能障害(遂行機能障害)への関与は少ない可能性がある。横断的検討であること、および、脳梗塞後の比較的早期の評価であることが問題点であり、経神経性神経細胞変性の臨床的意義の解明には、長期の経過観察による縦断的検討が必要であると考えられた。 本年度も、2000年代における、慢性脳虚血と脳梗塞発生との関連を、本研究の対象症例を含む脳主幹動脈閉塞性疾患患者の観察研究により検討し,高度脳循環障害と脳梗塞再発との関連を、昨年度同様、さらに確認した。この結果は、慢性脳虚血と大脳皮質神経細胞障害の発生との関連を支持し、神経細胞障害と梗塞後の大脳機能障害の予防に慢性脳虚血の治療が重要であることを示唆した。
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