本研究においては,ヒトの疲労の脳内メカニズムの解明に向けて,MRIを用いた非侵襲的脳機能定量法を確立した上で,安静時および疲労負荷時を通じての脳機能のモニタリングを可能とすることを目標とした.その手法を用いて,疲労に関連した脳領野を同定し,それら脳領野間の機能連関を探ることを目的とした研究を計画した. 本年度は,昨年度までに開発済みである安静時の脳血流量と酸素摂取率の定量法について,実用化のための方法論的な最適化を行った.脳血流量の測定には,動脈スピン標識(ASL)法を用いたが,得られた脳内の灰白質,白質における局所脳血流量の定量値が,従来のASL法やPETを用いた計測値との比較により妥当な値であることを確認した.また,多スラブ3D-GRASE法を用いたASLを新規に開発し,その脳血流量定量性に関して従来の単スラブ法との比較を行った結果,定量の精度を犠牲にすることなく計測時間を従来法の4割程度に短縮できた. 一方,本年度の研究の中心的な実施計画となるべき,健常人ボランティアを対象に疲労負荷課題を施行して,疲労関連領野を同定する実験計画に関しては,機能的MRI実験に用いるための適切な疲労負荷課題の選定が困難であったことと,当サイトにおける装置の不具合が続いた状況から十分な実験時間が確保できなかったことにより,当初の計画通りには進まなかった. 脳血流量と酸素摂取率は,従来の機能的MRI法では観測できない脳機能計測指標であり,これらを新規に開発し,基礎的脳機能計測法として導入できたことに意義があると考える.また,それら指標を従来の核医学イメージングを用いるのではなく,より非侵襲的にMRIによって計測を行うことを可能とした点で,臨床脳病態分野における応用にもつながる可能性がある.
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