研究課題
基盤研究(C)
本研究の主たる目的は、先進諸国の喫緊の課題である多文化共生社会における福祉国家の制度構想を研究することにある。多文化共生社会における福祉国家の制度構想を研究するという目的のために、日本とドイツの比較研究をおこなう本研究の研究計画は、4つのステップ、すなわち(1)資料の収集と整理、(2)実態調査、(3)調査結果に基づく考察、(4)研究成果のまとめからなる。本年度は、第一のステップに主に取り組んだ。(1) 日独に関する資料および文献の渉猟をおこないながら、両国の移民政策、福祉国家、社会保障と労働市場の連関等についての理解を深め、研究の基礎を築く作業をおこなった。とりわけ移民集団の文化的差異をめぐる諸問題に焦点を当てた研究を進めた。(2) 日本の移民政策を福祉国家と労働市場の相互連関という観点から分析した論考を、日英双方の言語で執筆し、日本およびドイツで論集論文として出版した。この論文作成を通じて、福祉国家と労働市場の連関のあり方がいかに移民の統合にとって大きな影響を与えるかという点を明瞭に提示することができ、本研究の基礎を形成することができた。(3) 日本政治学会にて、ジョン・ロールズの政治理論における宗教の取り扱いの問題についての考察を発表した。これによって、移民集団がかかえる文化的および宗教的マイノリティの課題についての理解を深めることができた。本発表によって、宗教的マイノリティとしての移民集団が、ロールズの場合のように、厳格な政教分離を骨子とする政治的世俗主義の原理のもとでは、みずからの権利要求や主張を公共的領域で提示する機会や可能性を著しく低減させざるをえない点が明らかとなった。この洞察は、移民の社会的統合を目指す福祉国家の制度構想にとって無視すべからざる重要な視点となっている。
すべて 2011 2010
すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (1件) 図書 (1件)
Migration and Integration (Glenda S.Roberts, Gabriele Vogt (eds.))(Iudicium Verlag)
ページ: 58-71