当研究の目的は、犯罪者の社会再統合のためのパートナーシップについて、(1)理論的検討、(2)欧米の実態調査、(3)日本でのアクションリサーチである。 平成22年度は、これらの目的に沿って文献研究をした他、国内の刑務所、少年院、自立更生促進センター、就業支援センター、更生保護施設、地域生活定着促進センターを視察した。さらにイギリス、フィンランド、デンマーク、オランダでは、矯正施設、保護観察所等犯罪者処遇機関と自治体、企業、NGO等地域の団体とのパートナーシップについて、視察研究をした。 その結果、海外では犯罪者の社会再統合を促進するに当たって、更生の基盤となる生活保障制度が整備され、その上に更生支援を支える理念(北欧の「ノーマライゼーション」、イギリスの「コミュニティの再生」・「ワークフェア」)が明確に定まり、さらに刑事政策が社会政策や地域福祉に円滑に繋がっており、更生支援に包括性と継続性があることが分かった。また、段階を踏んだ就労支援も整備されていた。それには職能性が有効に機能しており、それに付随して必要な資格・技能、そのための研修や資金助成が制度化され、職業技能のない犯罪者も意欲と動機付けがあれば、キャリアパスを上昇していき易い環境が整っている。ただ、どの国も経済不況とグローバリゼーション下にあって、犯罪前歴を持つ者の就労が困難なことは共通している。最終的には、どう雇用を創出し、社会参加や社会的承認の機会を与えるかが課題となる。 また、日本の更生保護施設出身者で、現在は社会適応を果たしている者10名にインタビュー調査を行った。その結果、彼らは共通に過去に職業上の成功体験がある、自分自身と現実への認識が適正であり、自分と社会への肯定的な構えがある、社会資源を活用している、希望に拘らずに就職して徐々に上位の職に移動するキャリアパスを築いているなどの特徴を有することが分かった。
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