本研究は、19世紀以来西欧を中心として近代世界を構成してきた社会原理が見直しを迫られているという認識のもとに、市民運動を新しい社会像を探るボトムアップの試みとしてとらえて、これを研究するものである。ベルリンの外国人が集住する地区においてすすめられている都市再生プロジェクトと、そこで展開している市民団体、移民、行政、運動家らの織り成す動きに焦点をあてて、その展開のプロセスを明らかにする。 平成25年度は、研究の最終年度として、これまで収集した資料と分析結果を総合し、そこからあぶりだされた重要な問題点についての補足的な調査をおこなった。 これまでの研究から、調査地においては、1960年代から展開した「新しい社会運動」の系譜と、1980年代初頭に劇的な高まりを見せた都市運動が、直接的な契機として絡み合いながら、現代にいたる市民運動が展開してきており、その背景に、冷戦と壁崩壊後の世界秩序の転回が磁力のように影響を及ぼしていることが明らかになった。東西冷戦の分断都市から再統合都市へ変容をとげたベルリンにおいて、外国人の位置づけも大きく変化した。単身の募集労働者から家族生活を営む市民へと転身をはかりながら、彼らは、世界政治の中での出身国との関係の再構成、行政の諸政策への対応、さらに移民自身の世代交代とともにあらわれてきた高齢化やアイデンティティをめぐる問題などに直面しており、このような外国人の存在が、現代の市民運動に影響を及ぼしている。本研究では、都市に生きる外国人の存在にも考慮して、現代都市の市民運動について、とくに多様なアクターが行政や種々のアソシエーションといかに交渉し重なり合いながら行動しているか、ということに焦点をおいて記述・検討し、現地の研究者および市民運動の当事者と意見交換を行った。また、最終年度として補足的な現地調査を行い、アーカイブ資料の収集もおこなった。
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