研究概要 |
本研究は,(1)「静寂な自然環境である地域での道路新設のあり方についての検討」,(2)「公共空間における拡声器等の使用による音の付加のあり方についての検討」の具体的な事例研究と,(3)「音環境の『公正さ』についての基礎的検討」の理論的研究からなる. (1)では,現時点で自動車の音が聞こえてこない山,海,観光地において,道路を新設することにより,どの程度まで自動車走行音が聞こえても許容できるかについて,心理実験を行った.その結果,大雑把には,もとの環境の騒音レベルの最大値が低いほど,許容される自動車走行音のレベルが低くなる傾向は見られたものの,SN比という観点からみると,環境の種類やそこに同時に居合わせる人(の声)の多少により,より厳しい許容値が求められる環壌から,寛容な値で十分な環境まで様々であることがわかった.また,環境により,被験者間の許容値のばらつきが大きい環境から小さい環境まであることが明らかとなった. (2)では,静音な自動車に音を付加するにあたり,国土交通省のガイドラインの求める方法では,視覚障害者が求める安全対策としては不十分であることを指摘した.さらに,この問題に関連して,目指すべき音環境の全体像についての社会的合意なしに,場当たり的な対処をしているのでは,問題の本質的解決は計れないことを論じた(これは次項にも直接関わる議論である). そして,(3)では,上述(1),(2)で取り扱っている事例に加え,震災により引き起こされた音環境の問題を事例とし,現状の音環境の問題は,目指すべき音環境の全体像がないまま,立場が異なる様々なものの声を十分に聞くことなく,音環境管理のポリシー(ノイズ・ポリシー)が決められていることに起因することを指摘した.そして,公正な音環境を実現するためには,音環境に対して多様な価値観を持つものが集い,熟議をする場を設ける必要があることを論じた..
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の3つの柱のうち,「静寂な自然環境である地域での道路新設のあり方についての検討」は当初の予定通り実験が進んでいる.そして,「音環境の『公正さ』についての基礎的検討」については,震災により早急に検討すべき課題が出現したため,当初の計画を大幅にこえた議論を行うことができ,大幅に進展している.その分,「公共空間における拡声器等の使用による音の付加のあり方についての検討」に割ける労力が減っているため,この部分は少々遅れ気味である.
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今後の研究の推進方策 |
今般の震災により引き起こされた音環境の問題には,音環境を管理するものに「音環境の公正さ」という観点が抜け落ちているために引き起こされてしまったものが少なくないことが明らかとなってきている.そこで,今年度に引き続き,「音環境の『公正さ』についての基礎的検討」の中で,それらの問題の検討を積極的に取り込み,より社会に還元できる形での議論を進めていくことを最重要課題としていきたい.また,「公共空間における拡声器等の使用による音の付加のあり方についての検討」については,公共交通機関を対象とした国土交通省のガイドラインの改訂が現在進行中のため,それに寄与できる形で成果をまとめていきたい.
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