今日、世界中のあらゆる国・地域において、グローバル化の波が押し寄せている。万人が物質的に豊かで利便性の高い生活を享受できる機会が得られつつあるものの、その反面で、さまざまな問題が顕在化している。なかでも、環境破壊や地域文化の喪失は、デザインの領域における重要な検討課題である。とりわけ、アジア、アフリカ、イスラム諸国などの非西洋文化圏の国・地域においては、当該の国・地域の歴史、気候、風土に基づいて構築されてきた生活に、全く異質の価値観が導入され普遍化することによって生じる齟齬が、上記の問題の大きな要因のひとつであると思われる。本研究は、長らく、環境との共生の生活が展開されてきた日本の陶磁器産地における「環境共生型」生活の実相のインテンシブな調査・探究に基づいて、そうした生活を支えてきた生活原理と生活指針を明確化するとともに、それらを今日にどのように創造的に展開し実践していくかを、デザインの観点から具体的に考究・提示することを目的としたものである。 平成24年度においては、日本における代表的な陶磁器産地のひとつである鹿児島県姶良市において、龍門司焼企業組合との共同に基づき、薩摩焼についての材料の採取、制作、使用、廃棄、廃材・端材の利活用、各種儀礼、歴史的変遷等に関する実地調査を実施し、「環境共生型」生活の実相の把握を試みた。また、現状における問題点の改善やさらなる産業支援活動などの側面から、そうした「環境共生型生活」を今後一層継承していくための方策を、陶磁器の端材を活用したワークショップの実施に基づいて検討した。 また、環境共生型生活を支えてきた生活原理と生活指針の明確化するとともに、当該研究の成果をとりまとめ、日本デザイン学会特集号ならびに台湾・高雄市において開催されたADCS(Asia Design Culture Society)の席上発表を行い、広く共有化を試みた。
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