ヒトの行為の特徴である多様性や柔軟性は、現代の認知科学の中心テーマのひとつである。本研究は行為の周囲を成す環境と行為の相互性、その成立や変化の過程に焦点をあてることで、行為のデザインと環境のデザインを一体に捉えることを目的とする。日常行為の理解、あるいは場所のレイアウトの設計に新しい具体的・実践的な知見を得ることを目指す。22年度には「場所」のアフォーダンスを以下の二つの場面で検討した。二つの場面での「場所」の動的生成過程を、生活場面における生活財の変遷と、縦断的観察によって記録・検討した。1)新築の戸建て住居に、転居直後から約1年間の居間、台所の家具等生活財のレイアウトの変遷、それらの使われ方、またその変遷の長期持続的記録を行った。レイアウトの変遷から行為における習慣の創発過程を検討する。2)高次脳機能障害者(行為のプランに障害が指摘されている)が、調理のリハビリで卵を割る過程を観察した。卵を操作する前の、きわめて長い、食卓上の環境の改変(器、道具などのレイアウトの変更)行為を観察し、それらを行為の単位に分節化する作業を行った。23年度には上記の記録と分析を継続して行い、内外の学会発表を行うとともに、学会誌論文にまとめる予定である。さらに食卓上の長期のモノの痕跡の記録など、新しい観察の場面を開拓する予定である。22年度の成果については、リハビリや建築の専門家によるコメントを得て、分析手法等をさらに洗練させる予定である。
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