本研究の目的は、地域デザインの一環としての環境政策を題材とし、その形成および展開過程と地域デザインの相互連関状況を社会学的に検討することである。先進的な環境政策を実施していると一般的に評価されている、岩手県葛巻町、福井県池田町の二自治体を調査対象としている。今年度は、主に葛巻町・池田町での資料収集を実施した。 資料収集としては、各自治体の町史(または町誌)、財政統計、広報などを収集し、その分析を行った。その結果として、「環境政策の先進的自治体」というとり上げられ方は同じであっても、初期条件の違いにより、展開される政策の内実は一定程度異なることが判明した。葛巻町の場合は、1970年代に開始された北上山系開発事業により大型設備の運搬が可能な道路が一定程度整備されたこと、十分な風量が見込まれたことから、風力発電を中心とする政策が展開された。大型設備の設置が中心的内容となることから、行政主導型の政策展開となった。一方、池田町ではそのような大型設備の設置は予定されておらず、生ごみ処理や環境計画策定に住民が関与するなど、住民の行動変容を主内容とする住民参加型のソフト的な政策が展開された。このような初期条件の違いにより、実現される地域デザインに差異が生じている点を把握したことが、重要な研究成果の一つである。 また使用概念の分析も進めた。「環境」を自治体のキャッチフレーズとして表出していることから、それを「ローカル・アイデンティティ」と表現しうるかを課題とした。
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