本研究の目的は、地域デザインの一環としての環境政策を題材とし、その形成および展開過程と地域デザインの相互連関状況を社会学的に検討することである。先進的な環境政策を展開している、岩手県葛巻町、福井県池田町の二自治体を調査対象としている。今年度は補足的な資料収集・インタビュー調査を実施した。 主要な成果として、平成22年度、23年度で実施した調査の論点を補強しえたことがあげられる。1)平成22年の調査で、国の開発政策の有無等初期条件の違いにより環境政策の内実に違いが出ることを確認した。葛巻町では、国の開発政策の一環で道路整備がなされたことを活かし風車等装置中心の環境政策が可能となった。一方池田町は目立った開発政策が採用されなかったため住民活動主体の環境政策が採られた。2)平成23年度(繰越分含む)の調査では、平成22年度末の東日本大震災により自治体環境政策にも変化が生じていることを確認した。3)今年度の調査により、上記1)の「初期条件の相違」が、上記2)震災後の変化にも影響しているという点が補強された。葛巻町では従来からの再生可能エネルギーをより推進しようとしている。一方、池田町はこれまで必ずしもエネルギー問題とは深く関わってこなかったことから、環境政策の方向性の変更も検討されている状況にある。 また平成23年度分の調査により、両町に共通する社会課程がある点も把握することができ、今年度の調査によりその点を再度確認した。 総じて、自然条件や国の政策など初期条件によって、地域デザインの一環としての環境政策の内実には分岐が生じる。一方、柔軟な住民参加による地域特性(ローカル・アイデンティティ)の確認という社会過程が共通しており、それを経て地域特性の具体化の一環としての環境政策が展開されている、ということを二事例から抽出しえた点が、研究期間全体を通じての成果である。
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