本研究は、核家族・高齢化社会における介護行為に関わる環境・サービス・設備・機器のあり方をデザイン分野において培われてきた方法論、中でも、問題発見・問題構想・解決案創出を一連のサイクルとして考えるデザインシンキング手法の応用によって、老齢者の生活、そして、介護士・看護師の労働行為双方の量・質の改善に向けた根本的ニーズの解明と問題解決への指針を示すことを目指している。 24年度においては、高齢者施設内での観察から得られたビデオ記録を元に、問題抽出を行い、それら切片化した問題群を施設スタッフを招いたワークショップにより編集し、問題構造を明らかにし、その後のブレインストーミングによるアイデア生成、さらなる精緻化を経て、主要問題に対する複数のデザイン解候補を作成した。さらに、これら解決案の施設スタッフ評価を収集した。 25年度においては、有力解決案の中から、食事と施設内アクティビティ(体操や娯楽)のメニュー提示に関する案を、施設内の実際の配膳計画に一致させたものを試作し、約1ヶ月に渡り期間運用した。期間内においては、再度ビデオ記録を取り、実効性と問題点をビデオ分析から探った。 分析からは、利用者間、利用者スタッフ間の会話容易性と能動的活動において一定の向上効果を認めることができ、会話きっかけの提供と施設内における生活のマンネリ化防止に活用できることが分かった。一方、毎日のメニュー更新が新たな労働負荷につながる可能性もあり、システムの運用にはテンプレート等の提供などの工夫が必要であることも分かった。 これら成果は、日本老年行動科学会大会等において発表し、学術的見地からの批評・評価も得た。
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