研究概要 |
ドアや窓を閉じた自動車内に外部から透過する音は大きく減衰されるため,車外と車内で聴取される警笛の印象は異なると思われる。本研究では,この異なる聴取条件を考慮した上で警笛音のより良いデザインについて検討した。乗用車の警笛の周波数特性,刺激長,振幅特性(振幅エンベロープ)を変化させ,車外聴取条件の刺激とした。さらに普通自動車の車外から車内へ音が透過する際の伝達特性を実測し,この近似フィルタを刺激に適用して,車内聴取条件の刺激とした。二つの実験参加者グループに車外条件と車内条件の刺激をそれぞれ呈示し,音質評価実験と警笛の使用意図を判断する実験を行った。車外条件の刺激は車内条件の刺激に比べて騒音レベルが約40dB大きく,結果として不快感が強かった。一方,刺激長は長いほど,振幅特性は現状の警笛に相当する一定条件の方が減衰条件よりも不快感が強かった。また1~3kHzの周波数帯域に主な成分を持つ現状の警笛は,より低域に成分を持つ刺激よりも不快感が強かった。以上より,低域に主な成分を有し,振幅エンベロープが減衰する警笛は現状の警笛に比べ不快感が少ないと言える。一方,使用意図判断実験では,車外・車内条件ともに,刺激長が短い(100ms)と「挨拶」や「お礼」,より長いと(1~3s)「注意」「危険報知」「苛立ち」などと解釈されることが多かった。これらは現状の警笛と同じ一定振幅の刺激に対する結果だが,振幅特性が変化すると回答傾向も変化し,解釈がばらつく刺激が多く見られた。警笛のコミュニケーションツールとしての側面に着目すると,振幅特性を変更した場合,聴取者は警笛の使用者の意図を誤って解釈する場合もあることが示唆される。以上の結果や,車外から車内へ透過する音は高域ほど減衰量が大きいことを考慮すると,警笛のデザインの方向性として,主要成分を現状より低域にシフトするなど,周波数特性の変更が考えられる。
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