本年度は研究の最終年度であるため、これまでの研究成果をとりまとめ、公表することに主眼を置いた。 デザインの哲学的基礎づけを意図する本研究は、まずもって社会のなかで現実化されている設計対象物に対する哲学的検証を行った。それは設計対象物のうちに物象化されている倫理規範の分析である。自然物を改変し製品を作る過程は伝統的には同一の制作者に帰属していたが、産業革命以降、設計と労働は分化した。設計は科学的な基礎を持つことになるが、その学的理性が分業に基づき制作対象物を制御することの存在論的/認識論的基礎がそれ以降問題化している。とりわけ2011年の福島原子力発電所の事故にあっては、理性的設計と自然支配の限界が露呈したと考えられる。研究は、原子力発電を認識論的/存在論的/弁証法的考察を通じて、設計の限界についての原理的考察を行った。本研究の該当部分は雑誌論文として公表した。 またこうした哲学的観点に即した設計に関する研究と並んで、従来デザイン史やデザイン理論のなかで問題にされてきたトピックについても研究を行った。一つは、いわゆるデザインコンセプトと呼ばれる設計の目的概念についての研究である。本研究は、デザインを支える概念が有機的なものであることの可能性と必然性をドゥルーズとガタリの概念をベースとして論じた。本研究の該当部分は学会における研究発表雑誌論文として公表した。 また本研究は研究成果をとりまとめた研究報告書を出版し、そのなかで、戦後ドイツで展開した機能主義批判、とりわけウルム造形大学のいわゆる機能主義的な形式美学に対する批判の諸形態について検討を行った。クリッペンドルフの製品意味論やオッフェンバッハ学派の製品言語論をヴィトゲンシュタインの言語論やパースの記号論をもとにしてその批判の妥当性を検証した。
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