本研究は、華やかな伝統工芸品の陰に隠れて注目されることの無かった道具・材料の生産者を、日本の伝統工芸品を根幹から支える文化的遺産として着目し、国際的に高いクオリティを維持する日本のものづくりのシステムを明らかにし、継承していくための研究である。特に道具・材料生産者と工芸技術者による連携に着目し、互いに要求・影響しあいながら品質を高めるというプロセスに焦点を当て、衰退・消滅の危機にある生産技法をつぶさに記録して次世代への継承を提案することによって、伝統工芸の保護・継承だけではなく、これからの日本のものづくりへの指針を示すことを目的とした。 調査ではまず道具や材料の使い手である工芸技術者(職人)へのヒアリング調査をおこない、工芸の現場における道具と材料の供給状況や、品質の推移、代替品の可能性などについての情報を収集した。その結果で明らかとなった供給不足に陥っている道具および材料12品目を選定し、その産地を訪ねて生産者へのインタビューと作業風景の写真・映像撮影を複合的におこなうことによって行程・生産状況の現状を調査した。また、本研究以前に調査をおこなった10品目についてもあらためて生産状況の確認をおこなった。 本研究のまとめとして、産地でおこなったインタビュー・写真・映像を収録した報告書ならびに映像記録を制作した。 また、本調査内容をもとにして、それらの道具・材料の生産者および工芸技術者との間で対応策を念入りに協議し、深刻な供給危機に陥っている伝統工芸材料の保護および次世代への継承について改善策を探った。
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