研究概要 |
本研究の目的は,福祉的立場から居住を担保する役割の公営住宅において,高齢化の進む入居者の自立した継続的居住を支援するための住戸の在り方について,トランスジェネレーショナルデザイン(加齢による身体的,感覚的障碍やそれによる生活行動の制限)の視点から建築計画上の方向性を導き出すことである。このうち2011年度は,4ヶ所の倉敷市営住宅においてアンケート調査を実施し,賃貸住戸として用意された画一的間取りの中での居住者の住要望や評価を把握するとともに,典型的な間取りとして類型したDK型とLDK型を取りあげ,多様な条件下にある家族構成と住みこなしの様子について比較分析を行った。ここで取り纏めた内容について,以下に列挙する。1.入居者の居住年数は平均14年と長期であり,長期居住者の継続居住要望が強まる傾向がみられた。2.住戸に対する要望は,間取りや広さ・住宅設備・バリアフリー対応など多岐に渡るが,概して高齢世代より若年世代の方が強く持つ傾向がみられた。3.室名でDKと記された領域は,現実的には食事の場所としては機能しにくく,キッチンとしてのみの使用にとどまる傾向にあった。4.LDK型(DKに連続した洋室を有する間取り)では,DK横の洋室が食事室兼居間として活用された結果,個室充足に寄与できる傾向が捉えられた。5.単世代でない場合,調査対象とした規模(≒50~60m^2)の住戸では完全な食寝分離と個室確保が難しい状況が確認できた。6.一般に北側の和室は活用度が低いものと思われるが,これを食事室や居間に利用するといった,居住者の案外と自由な選択が見て取れた。
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