研究概要 |
本研究の目的は,福祉的立場から居住を担保する役割の公営住宅において,高齢化の進む入居者の自立した継続的居住を支援するための住戸の在り方について,トランスジェネレーショナルデザイン(加齢による身体的,感覚的障碍やそれによる生活行動の制限)の視点から建築計画上の方向性を導き出すことである。2011年度は,前年にアンケート調査を行った倉敷市営住宅のうち同意の得られた15戸を対象に,居室利用や住意識に関するヒアリング調査及び,居住者自身の住環境に対する工夫やしつらえである"構築"の観点からのマッピング調査を実施した。取り纏めた内容を以下に要約する。1)カーテンにより空間を仕切るという構築が複数みられ,特に洗面脱衣の領域や玄関部での外内部の緩衝となる領域が必要とされていた。2.ダイニングキッチンとして設定された領域は,実際には面積的に不十分であり,キッチンとしての単独利用のケースが多かった。3.ダイニングやリビングに使用するパブリック領域を決定する際には,室が配置されている方位以外にも,北側居室の掃出し開口と付属されたバルコニーが大きく影響していた。4.2帖ほどの狭小なサービスルームでも,納戸や書斎等といった付加的空間から子どもの成長に伴う個室確保に利用するなど,居住者の生活スタイルや家族構成に対応する空間として柔軟な活用がなされていた。5.高齢居住に対する構築はほとんどみられず,福祉居住への予備的対応の遅れが確認できた。
|