近年、細胞外基質に接着する細胞は、α1β1インテグリンと1型コラーゲンの結合など、接着因子と細胞外基質問の特異的な結合に始まる情報伝達のみならず、細胞支持基盤(細胞外基質を介して細胞を保持する物体)の弾性という物理的情報にも応答することが見出された。3T3-L1脂肪細胞が、脂肪組織同様の弾性を持つゲル上でインスリンシグナルを増強させ、初代培養脂肪細胞同様の糖輸送担体発現パターンを示すこと、さらにインスリン依存性4型糖輸送担体の細胞膜移行を増やすことを最近報告した。また3T3-Ll脂肪細胞によるアディポネクチン産生が脂肪組織同様の弾性を持つゲル上で最大となるしたがって細胞支持基盤の弾性は、脂肪細胞が体外の培養環境においても生体内と同様の細胞機能を発揮するための因子の一つである。硬度調節の可能な二次元細胞培養システムで3T3-L1脂肪細胞を培養した場合、パルミチン酸負荷による炎症誘発効果が肥満状態の脂肪組織の硬度を模した細胞外基質で最大化することから、3T3-L1脂肪細胞が細胞外基質の硬度を認識して細胞機能を調節することをこれまで報告している。今年度は基質硬度を細胞が認識するメカニズムの解明に取り組んだ。その結果、Rho、ROCK1およびミオシン軽鎖キナーゼの活性化が硬度の増した基質を認識することに必要であることが判明した。さらに3T3-L1脂肪細胞による細胞外基質硬度認識に関わる因子として細胞外基質の種類とインテグリンのタイプも同定できた。これらの成果により、細胞外基質硬度による3T3-L1脂肪細胞の細胞機能制御を細胞生物学・分子生物学で扱える事象に落とし込むことに初めて成功した。また三次元培養系において3T3-L1脂肪細胞の細胞機能を制御する細胞外基質の物理的性状の評価を行い、硬度以外に別の因子を初めて発見した。
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