研究概要 |
有限グラフ上のランダムウォークとは,グラフ上の適当な頂点に置かれた粒子を隣接する頂点に対してランダムに移動させていくモデルである.通常の「隣接頂点に等確率で移動する」というランダムウォークでは,全頂点に粒子が訪問するまでの期待ステップ数は一般に0(n^3)であるが,グラフのトポロジーを考慮した遷移確率を採用することにより,期待ステップ数を悪くとも0(n^2),トポロジーによっては0(n)まで高速化できる.さて,自然界もしくは人工システム上の多くの現象が有限グラフ上のランダムウォークとしてモデル化できる.自然現象系に目を向けると,DNAコンピューティング/ナノテクにおける分子遷移機械は熱力学的な制約の下,とりうる状態空間をランダムウォークしながら形態を変化させる.人工現象系に目を向けると,情報システムであるインターネットのサーチエンジンのデータ取得用ロボットはWeb空間上をランダムウォークしながらデータを取得する.このように多くの分野で,高速なランダムウォーク設計が大きな意義を持つ.本研究は,ランダムウォークの高速化の仕組みを解明し,その設計論を確立することにより,諸分野におけるランダムウォークとしてモデル化できる現象/対象に対する解決法の提供を試みるものである. 平成22年度は最も有名なMCMC法であるメトロポリス・ヘイスティングスアルゴリズムをグラフランダムウォークに適用したメトロポリスウォークの到達時間・全訪問時間のタイトな上界を明らかにするとともに,グラフ上の高速ランダムウォーク(到達速度が任意のグラフで0(n^2)であるようなランダムウォーク)を実現するのに従来利用されてきたトポロジー情報を大幅に改善するランダムウォークの設計に成功した.
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