本研究の目的は,統計的な不確実推論の基盤の一つであるグラフィカル・モデルについて,統計的手法を適用できない人文科学研究などの分野でも利用可能なようにするために,不確実性測度の基礎として主観信頼性を提案した上で,グラフィカル・モデルを用いた推論手法を研究することにある. 従来研究で提案されてきたグラフィカル・モデルはモデル論を基盤にしたものばかりであるのに対し,本研究では証明論の方が人間の行う推論を自然に表現しているという視点に立ち,新たなモデルを提案してきた.主観信頼性を確率の計算の側面だけを抽出したものと仮定し,確率モデルを用いない.命題論理として通常の古典論理における節論理を採用して提案したグラフィカル・モデルの分析を進めた.古典論理なので,主観信頼性は計算面で確率と一致する.導出の対象となる2つの節が真である確率が与えられたとき,ある条件のもとで,2つの節からの推論の帰結である節(導出形)が真である確率が計算できることを示した.節集合(連言標準形)論の構造をグラフで表現することは従来研究と類似しているが,従来研究で提案されたモデルでは節集合とグラフの関係が1対1になってないという欠陥がある一方,本研究で提案するものは1対1となる. 一方,述語論理については,確定節からなる論理プログラミングを採用し,証明論に基づいたグラフィカル・モデルの研究を継続した.このモデルでは,証明の主観信頼性から帰結の主観信頼性を計算する.証明の主観信頼性とは,証明が構成可能である確率である.確定節では否定情報を扱えないので,ここでいう確率は通常の確率と一致する保証はない.研究は,証明の構成可能性検証と信頼性計算に分け,前者については現在急速に研究が進展している線形計画法を用いた論理の計算手法を応用する手法を提案した.
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