本研究は、人間が仮想と現実の間に生じる違和感を知覚する境界である"境界知"に注目し、実物体と仮想物体を重畳させる複合現実感技術を用いることにより、境界知に影響を与える要因やその刺激値について調査を行い、臨場感を表現する(違和感のない映像を生成する)ために必要な情報量に関する知見を獲得することを目的としている.本年度は、以下二つの項目に関する研究を主に推進した. 項目1:CG映像の現実らしさ(臨場感)を表現する要因の定義 高度なグラフィックス機能を有する映像解析用計算機とCGモデリングソフトウェアを導入し、高精細なCG映像の生成提示が可能なシミュレーション環境を構築した.その環境において、物体形状、表面素材、反射特性、照明条件、周囲の物体との相互反射、影の生成、隠れの状況など、CG物体の見え方を左右するあらゆるパラメータの洗い出しを行った結果、特に複合現実感では、臨場感を表現する要因として照明条件が重要であるとの結論に達し、その精度を向上させるために必要な計算コスト・情報量を算出定量的に変化させる仕組みを考案した. 項目2:境界知に関する知見の獲得(情報量と見え方の変化および人間の知覚の関係調査) 照明条件の変化が臨場感に与える影響を調査するために、予め生成した高精細・高画質のCG画像群を、ユーザの視点位置情報を用いて適切に切り替えながら提示することにより、高速かつ高品質な複合現実感提示方式を開発し、CG映像の厳密な比較評価実験を実施した.その際、高速3次元位置センサを導入することにより、ユーザの視点の移動を高速かつ安定に検知し、高精度の幾何学的整合性と時間的整合性を実現している.評価実験を通じ、照明条件に関する境界知に関する知見を得た.
|