本年度は以下の研究を中心に行った。 (1)代謝ネットワークの代謝流束解析による影響範囲の解析。昨年度まではブーリアンモデルによる代謝ネットワークにおける反応ノックアウトの影響範囲について解析してきたが、ブーリアンモデルでは可逆反応の適切な取扱いが困難であるという問題があった。その問題点を解決するために代謝ネットワークの解析に広く用いられている代謝流束解析に基づきノックアウトした反応の影響範囲の定義を与え、かつ、その範囲を線形計画法を用いて効率よく計算するアルゴリズムを開発した。 (2)支配集合を用いた複雑ネットワークの構造的可制御性解析。昨年度開始した複雑ネットワークを可制御とするための頂点数の研究を進展させ、各頂点がそれに接続する辺を独立に制御できると仮定した場合には、グラフ理論における支配集合を制御頂点集合として選べば、ネットワークが構造的に可制御となることを示した。さらに、ネットワークの次数分布がべき乗則に従う場合の支配集合のサイズの理論的解析を行い、その結果を計算機シミュレーションおよびデータ解析により検証した。 (3)最小二乗法と動的計画法を用いたネットワーク補完。以前より遺伝子発現時系列データなどの実験データに適合するように既知のネットワーク構造に対して最小限の修正を加えるというネットワーク補完という概念を提唱していたが、本研究において最小二乗法と動的計画法を組み合わせた補完手法を開発した。本手法は頂点の最大次数が制約されている場合には多項式時間で二乗誤差を最小化するという特徴がある。計算機シミュレーションを通じてその有効性を確認した。
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