線虫は神経回路とその行動を網羅的に調査するのに適した生物である。本研究ではこの神経回路と行動を同時に評価が可能な実験系の構築を目指し、線虫神経回路を光により可視化し、また光により選択的に破壊する系の開発を進めている。また同時にMEMSによる微細加工技術を利用して、線虫神経細胞の光計測と光破壊に伴う行動変化を定量する実験環境の構築を進めている。本年度は光計測系として介在神経細胞AIYにおけるカルシウムイメージングを行うことに成功し、また光により選択的に細胞破壊する系としては、感覚神経細胞AWCおよび介在神経細胞AIYに緑色光照射により活性酸素種を生成する蛍光タンパク質KillerRedを発現させることに成功した。特にAIY神経のカルシウムイメージングからは、神経突起上のバリコシティ上で嗅覚刺激に対応する一過的な細胞内カルシウム応答の計測に成功し、またこのカルシウム応答は嗅覚順応により抑制されることを明らかにした。さらに感覚神経細胞AWC内の重要なセカンドメッセンジャーであるcGMPの濃度を、細胞膜透過性のアナログ体である8 bromo cGMPにより強制的に濃度上昇させたところ、AWC下流の介在神経細胞であるAIYにおいてカルシウム応答を検出することに成功した。また行動実験評価方法として複数の嗅覚刺激に対する線虫応答を計測するための新規なマイクロ流路の開発を進め、また新規なマイクロ流路として、線虫が自由に首振り行動を行っている際の細胞内カルシウム応答を計測するための実験系の開発し、プロトタイプデバイスの開発に成功した。このデバイス中で線虫は自然な環境での首振りと同様な応答を示すことを確認した。
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