線虫の局所環境を制御しながら、特定の行動と神経細胞応答との関係を明らかにするために、新規なマイクロデバイスの開発とイメージング技術の開発を進めた。特に早期順応現象を明らかにすることを目指し、種々の実験を行った。まず前年度までに作成した化学受容器を匂い物質で刺激しながら、細胞内カルシウム濃度計測が可能な系を利用して、刺激を加えた際の介在神経細胞AIY応答を調べたところ、細胞体ではまったく応答しないのに対し、樹状突起局所ではカルシウム応答を計測することに成功した。この応答は振動しながら減衰し、短時間の繰り返し刺激に対しては応答しなかった。この現象は線虫における短期的な適応現象に対応するものと考えられた。一方で膜電位感受性蛍光タンパク質VSFP2.42をAIY神経細胞に導入して匂い刺激に対する膜電位応答を計測することを試みた。VSFP2.42は細胞膜から細胞質へのインターナリゼーションにより応答時のS/Nが低下するなでの問題があったが、適切に膜局在している線虫個体を選ぶことにより、AIY神経細胞で初めて膜電位計測に成功した。その結果、興味深いことには、カルシウムイメージングでは検出できなかった細胞体での膜電位応答の計測に成功した。この応答は振動しながら減衰する傾向を示した。 また線虫首振り運動を解析するための新規なマイクロデバイスの開発にも成功した。このデバイスは固定した線虫頭部に濃度(または温度)の異なる二層流を形成することが可能であり、線虫背腹軸方向に濃度勾配(温度勾配)を形成することができる。併せて線虫行動を局所定量解析するための画像解析プログラムを開発した。
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