ヒトの言語発達と良く似たプロセスにより音声コミュニケーションの能力を後天的に獲得する鳥類(songbird:鳴禽)は、脳研究の新たなモデル動物として注目されている。研究代表者は、songbirdの発生工学的手法の開発に独自に取り組み、トランスジェニック個体の作出・育成に成功した。しかしながら、遺伝子組換えsongbirdを神経科学領域の研究に適用するには、さらに技術的制約を克服する必要がある。脳は、極めて多様な神経細胞から構成され、生後の発達の過程でダイナミックに変化する。したがって、その機能を明らかにするためには、組換え遺伝子の発現制御を正確に行うことが重要である。本研究では、組換え遺伝子発現の時間的・空間的制御の精度を改善すべく、songbirdの遺伝子組換え技術にさらに改良を加えることを目的とする。本研究で発展させるsongbirdの遺伝子組換え技術により、コミュニケーションや社会性に関する発達障害の病態を分子から個体レベルで検証するための精度の高い実験モデルが構築できる。これらの疾患の治療・療育法の開発が効率よく推進可能となり、医学のみならず社会への多大な貢献が期待できる。本年度は、遺伝子導入効率の改善を目的として、受精卵へのベクター導入の条件検討を行った。その結果、7系統の異なるトランスジーンコンストラクトを導入したトランスジェニックラインを確立することができた。またsongbirdは、生後発達の過程で音声を獲得するため、生後の音声学習の解析法の検討を行った。
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