造血系幹細胞移植による微小循環障害に対する治療効果(若返り効果)およびその機序を検証のため、中年齢SHR-SPラットへの若齢ラット由来骨髄細胞移植を実施した。その結果、老齢SHR-SPラットに対する若齢ラット由来骨髄細胞移植の時に観察された“脳血管若返り効果”と同様にタンパク尿増加抑制などの治療効果が観察されたが、移植2週後には移植細胞の腎、血中、骨髄への生着は光顕レベル/FACS解析ではほとんど観察されなかった。そこで、造血系幹細胞移植の治療機序を詳細に検討するため、透過型電子顕微鏡を用いた研究を実施した。脳微小循環障害モデルを用いた検討では、コントロール群(非治療群)においては微小循環障害部位において内皮細胞の細胞質に大小の空胞が形成され、ペリサイトの乖離や細胞質の淡明化が観察されたが、造血系幹細胞移植群においては、血管壁を構成する血管内皮細胞の肥厚とその数の増加が観察され、ペリサイトおよびアストロサイトendfeetとの境界部である基底膜も太く明瞭であることが明らかになった。さらに、造血系幹細胞移植24時間後においては、内皮細胞の内壁に接着している細胞、junctionを押し広げるようにして血液脳関門を通過中の細胞、血管外に既に脱出した細胞などが広範囲に存在しており、造血系幹細胞と内皮細胞との接着、造血系幹細胞から内皮細胞へ出されている何かの因子が重要である可能性が高いと考えられた。老齢個体の若返りは、古代からの人類の夢であるが、本研究の成果は自己臍帯血長期保存あるいは自己iPS細胞由来造血系幹細胞作成技術等と組み合わせることにより、老齢個体の微小循環の若返りが可能であることを示唆している。
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