神経細胞は最終分裂終了後の成熟過程において、それぞれの神経細胞固有の部位に移動し、最終分化を行い、成熟した極性の発達した神経細胞となる。神経細胞における放射線感受性は、成熟過程のある分化段階Xを境として、all or none的に変化することが示唆されている。本年度は、まずこの仮説を実証することを目指して研究を行った。10週齢の雄性Wistarラットをネンブタールで麻酔し、左側頭部を除く領域を鉛で遮蔽し、10GyのX線を照射した。この方法により、右脳を遮蔽側、左脳を照射側として同一個体で放射線の影響を比較することが可能である。照射二日後に灌流固定し、抗DCX抗体、抗ドレブリン抗体(M2F6)、抗ドレブリンAアイソフォーム特異的抗体(DAS2)を用いて蛍光免疫組織染色を行った。そして、細胞体のDEのシグナルを検出するため、DEとDAの両方を標識するM2F6の画像から、DAS2の画像を差し引き、DCXのシグナルと組み合わせて解析を行った。まず側脳室で、移動中の新生ニューロンの感受性が高いことを確認した。次に、嗅球を調べたところ、新生ニューロンが移動中である中心領域においてはDCXやDE陽性細胞は照射側でほとんど見られなかったが、移動中と成熟中の新生ニューロンが混在する嗅球の顆粒細胞層では、照射側でも染色性の強いDCX陽性細胞が数多く残っていた。以上から、側脳室から嗅球の標的領域へと移動中の新生ニューロンは、移動を停止した成熟中の新生ニューロンよりも放射線感受性が高いと考えられる。一方で、海馬歯状回における新生ニューロンは成熟中の新生ニューロンであってもX線照射により減少しており、嗅皮質の新生ニューロンは移動中の新生ニューロンであっても、X線照射後も残存しているなど、脳の領域によって放射線感受性が異なることも示された。
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