日本人の死因で、15歳から49歳という主な就労年齢の世代で自殺が2位以内になっている。特に20歳代後半から30歳代前半の若い世代では死因のトップになっている。こうした自殺の原因にうつ病が関係していると考えられている。うつ病の原因究明と治療法の開発は多くの人々が求める急務の課題である。このような精神疾患・障害の研究には脳神経系がヒトと近い霊長類を対象とした研究が不可欠である。しかし、これまでに有用なうつ病の霊長類モデルは存在しない。本研究では、まずトリプトファン含有量の少ない餌を与えることによりセロトニン欠乏を引き起こし、うつ病の症状を誘発することを試みた。結果的には期待したような行動変化は起こせなかった。原因として以下の2点が挙げられる。1)トリプトファン含有量の少ないエサ(具体的にはトウモロコシ)を日常的に与えたときにコモンマーモセット摂餌量が徐々に減少したため投与を中止した。2)ヒトでもトリプトファン含有量の少ない食事をしたときに、一部の人にのみうつ病の症状が現れるため、今回試した2頭では被験体数として少なすぎた。その後、これまでに予備的に試したことのある薬物誘導によるうつ病モデルを再現してみた。薬物投与によりモノアミン系の機能を抑えた。その結果、活動量が顕著に低下した(活動量はActiWatchを用いて計測)。嗜好に影響が出ているか否かを検討するために、シュクロース液と水道水を給水ボトルに入れ、各々のボトルからの飲水量を測定した。健常個体は、甘さを感じるシュクロース液を多く飲むことが分かっている。これに対しモデルマーモセットでは、シュクロース液を飲む割合が低下する傾向がうかがえたが、統計的に有意な差には至っていない。今回の結果を検証するため、頭数を増やし検討する、また、別の薬物(具体的にはインターフェロン)を用いてうつ病の症状が誘発できるか否かを検討する。
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