研究概要 |
本研究では、高出力フェムト秒レーザーを用いて、脊椎動物胚体の単一細胞に遺伝子やナノ粒子を物理的に導入する方法を確立することを目標に研究を行った。 我々は、申請書の研究実施計画に基づき、昨年度までにゼブラフィッシュの胚で、上皮および神経管の単一細胞にアンチセンスモルフォリノオリゴヌクレオチド、RNA、デキストラン(分子量10,000Da)までを導入できる安定した導入方法を確立していた。そこで、本年度は導入可能な動物胚の種類を拡大し、単一細胞の遺伝子操作をすることを試みた。 その結果、ゼブラフィッシュ胚に加えて、ニワトリ胚などの単一細胞にもデキストラン(分子量10,000Da)を導入できる系を確立した。さらに、ニワトリ胚において、EGFPやRFPの発現ベクターをレーザーで物理的に導入された上皮および神経管の単一細胞であっても、細胞が分裂を繰り返し、高い生存率を示す条件を明らかにした。また、ゼブラフィッシュ胚の単一神経細胞にレーザーでRNAを物理的に導入することで、単一神経細胞の運命を変更できる系を確立できた。 このように、本研究は、研究計画通りに実施され、全ての目標を達成できた。本研究で確立した高出力フェムト秒レーザーを用いた手法は非常に選択効率の高い物理的な手法であるため、新しい研究手法への展開の可能性が大いに考えられる。例えば、本手法は、従来の領域特異的プロモーター配列を利用した遺伝子発現領域の選択の必要がないため、時間と手間のかかるトランスジェニック動物を作成することなく、胚体の特定の細胞だけを遺伝子改変する新しい技術として発展させうる。さらに、ゲノム情報の少ないモデル実験動物胚の細胞の遺伝子操作手法の応用の可能性など、実験動物胚を用いた研究分野に大きく貢献できると確信する。
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