細胞分化の制御は再生医療の大きな課題であるが、現在は単純な組織に限られ、臓器については再生の目処が立っていない。我々は細胞死を誘発しにくいサブミクロン径の細胞膜穿孔法を発見、本研究では膜穿孔法と自己組織化材料との組み合わせによって、大規模細胞分化誘導システムの開発を行う。 また、細胞への物質導入は光照射によって誘発されるため、光照射パターンの制御により、細胞集団に任意の時空間的パターンで分化誘導を行いうる。これにより、臓器のような多種の細胞からなるシステムを人工的に構築する技術の目処をつける。全体計画としては、光酸化反応を誘発できるナノ剣山状細胞膜穿孔体とその運用システムによって、シート状の細胞群の個々の細胞に対し、印刷的に任意のパターンで物質を導入する、大規模集積型の細胞分化誘導システムを開発する。 平成22年度には培養・分化が容易なラット由来クロム親和性褐色細胞種PC12細胞を対象とした。穿孔体成型時の残留気泡の除去や、成型時間の短縮、また成型精度の向上を達成し、以降の穿孔実験の定量的データ収集の基盤が出来た。またディッシュ上のPC12細胞集団に、改良型穿孔体によって細胞膜不透過性蛍光色素を膜穿孔により細胞内に導入成功した。この際の光源は顕微鏡の水銀ランプであったが、一方でLEDアレイを光源としたものでは光量の不足のためか成功しなかった。このため今後の細胞パターニング実験では、ハロゲンランプ光源プロジェクタが必要と見積もられた。なお細胞に対し、期間をおいて穿孔を複数回行う場合には、細胞密度に応じて穿孔時の細胞加圧を変化させる必要があった。このためHeLa細胞で成功していた画像からの細胞面積導出プログラムを基に穿孔制御への応用を試みたが、PC12細胞には形状の違いからそのままでは適用出来ず、年度内にはプログラム修正が間に合わなかった。しかしながら、問題点の抽出は終えており、次年度の実装に目処をつけた。
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