研究概要 |
管状膜タンパク質は細胞膜中に小孔を形成する管状のタンパク質であり,それが持つイオン透過の機能は細胞刺激用デバイス等への医用生体的な利用が期待できる.管状膜タンパク質を電極として利用するには,要素技術の1つとしてデバイス内に導入された管状膜タンパク質をリアルタイムで多角的に評価する手法が必要となる.現在,管状膜タンパク質のイオン透過機能を評価する手法としては電気的パラメータの電気化学計測が一般的である.しかし,どの程度の数の膜タンパク質が細胞膜中に導入されているのかは不明である.これまでに人工脂質二重層形成実験ならびに画像計測技術の開発を実施し,膜のイオン透過機能を簡便に画像計測する手法を提案した.次の段階として膜タンパク質を遺伝子組み換え技術を用いて蛍光標識して可視化して観察することを試みる.本年度はその前段階として,実験系を構築する目的で,取り扱いが比較的容易な,細胞骨格の構成要素であるアクチンというタンパク質に注目した.そして蛍光タンパク質の1つであるGFP(Green Fluorescent Protein)をアクチンに標識するためにGFP-actin発現ベクターを細胞に遺伝導入し,レーザー共焦点顕微鏡によって経時的に撮影した細胞運動の微分干渉画像(以下DIC画像),およびアクチンに結合したGFP蛍光画像(以下GFP画像)を撮影する実験系を構築した.また画像処理の際,対象物の抽出や検出に関連する誤差やノイズの影響を軽減する目的で,細胞輪郭内の領域を細胞輪郭の面積中心を基準に8方向に分割し,それぞれの領域内で細胞運動およびアクチンの検出量を定量化する手法を提案した.
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今後の研究の推進方策 |
細胞刺激用デバイス等への管状膜タンパク質の利用を考えた場合,複数個の細胞を同時刺激することが想定されるが,それぞれの細胞に対するイオン透過機能を同時に電気計測によって評価することは容易ではない.そこで我々は,この課題を解決する手法として細胞内シグナル計測に利用される蛍光イオンセンサを用い,その蛍光画像から管状膜タンパク質のイオン透過機能を評価することを提案した.しかしイオン透過性機能の計測において,蛍光イオンセンサ利用は計測を容易にするメリットがあるが,その計測結果の精度が未だ明確でない.そこで今後は,イオン濃度勾配が存在する人工的な脂質二重膜中に評価対象となる管状膜タンパク質を導入し,それによって生じるイオン透過の推移を蛍光画像によって観測する実験を行い,蛍光イオンセンサを用いたイオン透過機能に対する評価の有効性を調べる.さらに,蛍光観察と同時に,膜を隔てた2つの領域間での電気的計測を実施する実験を行い,蛍光観測と電気的計測のそれぞれから得られた結果の比較を試みる.
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