正常な膜タンパク質を有するリポソームをヒト細胞から簡便かつ大量に取得することを目的として、細胞の薬剤刺激と微小孔アレイデバイスを用いた新規の細胞由来リポソーム生成分離技術を構築した。製作した微小孔アレイデバイスはシリコン製の培養ウェルアレイを有し、各ウェル底面は窒化シリコン製の自立薄膜より成る。このウェル底面には、孔径5μmの微小孔がアレイ状に配置され、表面修飾された細胞膜アンカー分子によりヒトリンパ球細胞が固定化される。この細胞に対して酪酸ナトリウムによる薬剤刺激を行うと、細胞からリポソームが生成され、リポソームが微小孔を通過し細胞から分離される。このデバイスを用いることでリポソームの生成量が大幅に上昇したが、細胞が分裂中に微小孔を通過し、回収したリポソームに細胞が混入する問題が生じた。そこで、細胞周期を制御する前処理を行い、細胞分裂が起こる前にリポソームを生成することで、99%の分離効率を実現し、リポソーム径を約3μmに均一化することに成功した。従来のリポソームはリン脂質溶液から合成され、膜タンパク質はその合成時もしくは合成後にリポソーム膜内に導入される。その際に膜タンパク質の構造破壊や配向エラーに伴う機能低下や失活が生じるため、リポソーム上に正常な構造と機能を有する膜タンパク質を得ることは極めて困難であった。これに対して、本研究の手法により生成されるリポソームは、親細胞が発現した膜タンパク質をそのままの状態で引き継ぐため、これらの膜タンパク質をその本来の構造と機能を維持した状態でリポソーム膜上に確実に得ることが可能である。
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