研究概要 |
ニメチル酸化硫黄(DMSO)に替わる凍結保存剤の候補があげられており、造血幹細胞を凍結保存する場合に、細胞分化に与える影響はないことを確認した。人体に適用するためには、凍結保存剤が体内にはいって、異常物質を発生しないことを証明する必要がある。新規凍結保存剤は、メチル基の受容体や供与体になって、異常物質を作る可能性がある。新規凍結保存剤を注射したラットの体液を質量分析しても異常物質は検出できなかったが、新規凍結保存剤と50種類存在するメチル化酵素との作用を検討した。 メチル化酵素の作用の量子化学的な解明は最近開始されている。メチル化酵素はメチル基受容体の窒素に結合した水素をはずして、メチル基供与体のメチル基を移動させる。基質特異性は一般に高いため、新規凍結保存剤がメチル化酵素の認識を受けてメチル化される可能性は少ないが、新規凍結保存剤がメチル化酵素の認識を受ける可能性も推測される。メチル化酵素としてguanidinoacetatemethyltransferase(GAMT)、メチル基受容体としてGuanidinoacetate(GAA)、メチル基供与体としてS-adenosyl-L-methionine(AdoMet)のタンパク結晶の空間構造を検討した結果、メチル化酵素とメチル基受容体とメチル基供与体の三分子が、正確な立体配置をとらないと、メチル基の移動は行われないことがわかった。X線散乱による結晶解析では、酸素の位置しかわからないが、5個の水の酸素が、この三分子の中間に水和している。水の酸素とメチル化酵素とメチル基受容体とメチル基供与体の三分子の酸素や窒素原子の距離を測ると、2,78A、2,92Aといった水素結合の距離にあり、メチル化酵素は水を介した水素結合によつて正確な立体配置をすることによつて、高い基質特異性を持つことがわかった。メチル基受容体とメチル基供与体が大きいため、基質特異性が高いことが推測された。新規凍結保存剤の分子形状を検討して、メチル基の受容体または供与体になって、メチル化酵素と反応する可能性は少ないと判断された。
|