現在まで白血球の凍結保存剤として使用されてきたジメチル酸化硫黄(DMSO)は、凍害保護作用とともに、副作用も生じることは見逃されてきた。凍結保存された造血幹細胞を解凍して、静脈注射を行う骨髄移植において、必ずDMSOは体内にはいり、肝機能傷害やアレルギーを生じる。1970年代には欧米でDMSOによる副作用の報告が出版されてきた。硫黄は通常の生体分子が持つ炭素や窒素より周期律表では一段高い原子番号を持ち、d軌道が持つ高い反応性が、氷晶を歪める凍害保護作用とともに、多様な副作用を生じていることが指摘されている。本研究では、このd軌道にある確率で存在する電子が示す長所と短所の両者を分析して、副作用のない凍結保存剤を提案した。d軌道に電子が存在しない分子を凍結保存剤として使用すると、異常な反応性が低下するため副作用が低下することは予想されるが、同時に生体分子に類似な分子となるために、生体内で通常生じている多様な反応に組み込まれて生じる新たな生成物が有害でないことを立証する必要が生じる。 多様なメチル化酵素は、分子の認識性が高いため、体内で新規凍結保存剤と反応して有害な反応物を生じる可能性は少ない。しかし、新規凍結保存剤の濃度はDMSOと同じ5%であり、人体に服用する薬剤よりも極めて高いことも、本研究ではDMSOのd軌道が持つ異常反応性とともに最も重視した。5%濃度のDMSOではなく新規凍結保存剤と接触する細胞が異常代謝を行う可能性が、存在しないことを証明する実験を行なった。ラットに注射して、新規凍結保存剤が、体内で異常代謝をしないことを確認した。この分析に使用する質量分析は高い精度を持つが、コストがかかることが難点であり、本研究期間終了後も、研究班は質量分析による新規凍結保存剤の代謝物の検出を続け、新規凍結保存剤が体内で異常代謝する可能性がないことを動物実験を重ねて確認してゆく。
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