本研究の目的は、内視鏡外科手術映像に「陰影の手がかり」を与える新しい照明デバイスとこれを用いた内視鏡外科手術の開発であった。 第1段階のドライボックスでの実験では、既成のLED面発光照明デバイスをもちいて、医学部学生42名、外科医師23名の協力のもと、内視鏡外科手術タスクを行いそのパフォーマンスを評価した。その結果、「陰影の手がかり」のある照明システムのほうが従来の照明システムに比べ、統計学的に有意に、タスクのスピードと正確さにおいて優れたパフォーマンスを発揮するという結果を得た。 第2段階では、擬似臓器を用いたタスクを計画したが、擬似臓器の規格にばらつきが多く、実験材料としては不適格と判断し、第3段階へと進んだ。 第3段階の動物実験では、体腔内に挿入できる新しい照明デバイスの開発と実際の手術でのタスクパフォーマンスを評価することが目的であった。新しい照明デバイスは、既存の製品である冷陰極蛍光管を用いて開発に取り組んだが、予想以上に漏電が多く、持続的に十分な光量を得られるようなデバイスの開発にはいたらなかった。一方、タスクパフォーマンスの評価までは至らなかったが、実際に生体内を、新しい照明システムである上方照明という方法で観察すると、極めて自然で、あたかも肉眼で直接観察しているかのごとく見える内視鏡映像が得られることが分かった。実験は、外科医師、手術室看護師、医学部学生などのべ約20名の参加を得て、ブタ4頭に対して行った。実験後に行ったアンケートでも、多くの参加者が自然に見えたと回答した。アンケートは自由回答であったため、奥行き感や立体感という言葉はほとんどなかった。しかし、映像が自然な感じに見えたという感覚は、今までの内視鏡映像では決して得られなかった感覚であり、上方照明の有用性を評価するうえで重要な知見と考える。
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