研究課題/領域番号 |
22650130
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
沖田 実 長崎大学, 大学院・医歯薬学総合研究科, 教授 (50244091)
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研究分担者 |
中野 治郎 長崎大学, 大学院・医歯薬学総合研究科, 准教授 (20380834)
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キーワード | 変形性膝関節症 / 実験モデル / 関節炎 / CPM / 炎症 / 腫脹 / 痛覚閾値 / 慢性痛 |
研究概要 |
今年度は、ラット膝関節炎の発生直後から持続的他動運動(Continuous Passive Motion ; CPM)機器を用いた運動療法の治療介入を行い、患部ならびに遠隔部におよぼす影響を検討した。予備実験も含めて100匹のラットを実験に供し、以下はモデルとして妥当であった30匹のラットのデータである。実験デザインとしては、1)起炎剤である3%Carrageenan-Kaolin混合液300μLを右膝関節に注入し、関節炎を惹起させる関節炎、2)同様に右膝関節に関節炎を惹起させた後、CPMを実施するCPM群、3)疑似処置として生理食塩水300μLを右膝関節に注入する対照群の3群を設定した。そして、CPM群に対しては起炎剤投与4日目から角速度10°/秒の膝関節屈曲伸展運動を60分間(週5回)実施した。次に、各群に対しては起炎剤(生理食塩水)投与の前日から経時的に右側膝関節の腫脹と圧痛閾値ならびに遠隔部である足背の痛覚閾値を評価した。結果、患部の腫脹に関しては関節炎群は起炎剤投与1日目をピークに31日目まで対照群より有意に増加していたが、CPM群は7日目以降、対照群との有意差が認められなくなった。また、患部の圧痛閾値においても関節炎群は起炎剤投与1日目をピークに24日目まで対照群より有意に低下していたが、CPM群は17日目以降、対照群との有意差が認められなくなった。遠隔部である足背の痛覚閾値においては関節炎群は起炎剤投与1日目から対照群より有意に低下し、これは31日目まで持続したが、CPM群は7日目以降、対照群との有意差が認められなくなった。なお、実験最終日に膝関節を採取し、組織病理学的に炎症の評価を行ったが、関節炎群とCPM群には顕著な差はなかった。以上のことから、関節炎発生直後からCPMを実施すると、患部の炎症症状のみならず、遠隔部に生じる慢性痛の徴候を予防できる可能性が示唆され、今後はそのメカニズムを解明し、バイオマーカーの開発につなげていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、治療介入方法としては電気刺激による筋収縮運動を予定していたが、昨年度の成果を5月開催の学会で発表した折に電気刺激の場合は下行性疹痛抑制系を賦活するため、筋収縮運動そのものの生物学的効果として膝関節の痛みが軽減したかどうかは不明であるとの指摘を頂いた。そこで、この点を再検討した結果、治療介入方法をCPMによる関節運動に変更し、実験を進めた。その結果、前述のような治療介入効果が明確となり、変形性膝関節症の急性期における運動療法の重要性が明らかになってきたことから(2)と判定した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画からは運動療法の治療介入方法の変更を行ったが、前述のように運動療法は膝関節炎に対して生物学的効果を発揮している可能性が高いことが示唆されている。加えて、この研究成果は組織損傷など、炎症に起因した慢性痛の予防手段としてめリハビリテーションのあり方にも示唆を与えるものと考えており、今後は当初の予定通り、経時的な炎症性サイトカイン等の動態を調査し、生物学的効果のメカニズムを解明するとともに、バイオマーカーの開発に向けた検討を行っていく。
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