研究概要 |
健康・QOLを維持するために有用となる新たな健康指標を見出すべく,特に「循環予備力」に着目し以下に示す実験的検討を行った.被験者は健常成人男性12名で、このうち日常的に運動を行っている者(運動者)及び運動していない者(非運動者)はそれぞれ5名及び7名である。また年齢・身長・体重の平均値±標準偏差は運動者で35.2±16.0歳、170.8±2.9cm、64.5±3.8kg、非運動者で21.1±0.4歳、171.4±4.5cm、59.3±4.1kgであった。 これら被験者に対して全長:約500m,平均斜度:約5%,高低差:約25mのほぼ直線の舗装傾斜路をマウンテンバイクで可能な限り短時間で登るよう指示を与え、登坂中の位置情報、標高、心拍数及び登坂に要した時間をGPS機能付き無拘束心拍数計(EDGE 705,Garrmin)により計測した.登坂時間及び体重,自転車重量,高低差から仕事率を算出したところ、運動者で201.2±10.7wattであったのに対して非運動者では177.7±19.2wattとなり、運動者の方が大きな仕事率を発生できることが確認できた(t<0.05)。 次に上記で得た仕事率とほぼ等しい負荷を自転車エルゴメータにより加え、心拍数(HR)、心拍出量(CO)、一回拍出量(SV)を循環動態モニタ装置く自作品)により無侵襲計測した。なお負荷時間は上記の「登坂時間」に設定した。その結果、HRを横軸に、COを縦軸にとった場合は運動者・非運動者共に、その傾きに若干の違いは見られるものの、いずれの場合でも右肩上がりの特性、すなわちHRの増加に伴いCQが増加する傾向がみられた。これに対してHRを横軸、SVを縦軸にとった場合、非運動者では安静時の1.1倍程度までの低HR領域でSV増加しそれ以上では若干低下したのに対して、運動者では低HR領域ではSVがほとんど変化しないものの、1.3倍程度以上になるとSVは増加し始め1.6倍以上になっても増加し続ける例もみられた。これらの結果より、運動負荷に対する循環応答を「HR-CO平面」ではなく「HR-SV平面」で表すことにより、各被験者の心収縮特性の違い、特に心筋収縮能力の『予備力』に関する違いを評価可能であることが示唆された。
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