研究概要 |
本研究では「健康・QOLを維持するために有用となる新たな健康指標」を見出すことを目的とし,昨年度は健常成人男性12名を対象に無侵襲心拍出量(CO)計測装置による循環機能計測実験を行い,エルゴメータ負荷に対する心拍数(HR)と一回拍出量(SV)の関係から心臓の予備力を評価可能であることを示唆する結果を得た.この知見に基づき,今年度は中高年及び高齢被験者を対象とした循環応答計測実験を当初実施する予定であった.一方において呼気ガス分析装置により得られる「嫌気的代謝閾値:AT」は,アスリートの体力評価のみならず心臓リハにおける適正負荷評価などにも用いられており,ATを評価可能な簡易指標が得られればその有用性は極めて高い.そこで今年度は,昨年度の実験的検討により「心予備力評価指標」としての有用性が示された「SVの負荷応答」について,新たに「呼吸機能」との関連性を調べることでATの代替となり得る簡易指標が得られるかどうか予備的実験を行った. 具体的には,健常成人12名(男性及び女性の運動者・非運動者各3名,合計12名,平均年齢20歳±0.57)を被験者として,エルゴメータによるRamp負荷に対するHR,CO,SVの応答を計測すると共に,呼気ガス分析装置を用いて酸素摂取量(VO_2)及び二酸化炭素排出量(VCO_2)を同時計測した.Ramp負荷法は2分間の安静後,1分間に30Wの割合で各被験者の最大負荷まで直線的に負荷を増加した.その結果,循環機能に関しては男性・女性どちらにおいても昨年度と同様の傾向,即ち運動者は最大心拍数(HRmax)に近いHRにおいてもSVを増加できるのに対して,非運動者ではSVはほとんど増加せず,逆にHRmax付近では減少する例も見られた.また,運動者ではSVの最大値は安静時の1.5~2.5倍に達し高い心予備力を有していた.一方呼吸機能との関係については負荷量を横軸に,SV及びガス交換比R(R=VCO_2/VO_2)を縦軸にとり負荷に対するSV及びRの変化を検討した.その結果,Rの変曲点(ATに相当)における負荷値がSVの変曲点(下降から上昇に変る点)付近にあり,Ramp負荷に対するSVの変化からATを推定可能であることを示唆する結果が得られた.
|