脳において、身体運動の表象は大脳皮質頭頂連合野および運動前野、さらには小脳皮質などに形成されると考えられているが、この表象に関わる神経基盤は自己および他者の動作の予測・判断においても重要な役割を果たしていると推測されている。ところで、脳における運動の表象に関して、スポーツ競技におけるその競技特有の動作に関連したものが脳に形成されているかどうかについて明らかにした研究は未だない。そこで、本研究においては、走り高跳び競技に着目し、あらかじめ撮影した自分や他人の試技を見た際の脳活動に関して機能的核磁気共鳴画像法を用いて解析し、脳における走り高跳びの動作に関連した表象、特に大脳皮質運動前野と小脳皮質との機能連関について明らかにすることを目的とした。 被験者としては、大学体育会陸上競技部等に所属し、競技経験が豊富で一流競技レベルに該当する大学生をアスリート群、一方、走り高跳びの経験がない一般成人(大学生)を対照群とした。被験者に呈示する動画はアスリート群においては、事前に撮影しておいた自身および他人の跳躍試技の動画と跳躍せずにランニングしている際の動画を用い、一方で、対照群にはアスリート群の動画を呈示した。アスリート群においては、ランニングの動画に対して跳躍動画を見ている際に、腹側運動前野、帯状皮質、尾状核、淡蒼球、視覚野、小脳皮質外側半球部等で活動の増加が観察された。一方、対照群では帯状皮質、下前頭回、視覚野、小脳虫部で活動の増加が観察された。アスリート群と対照群との群間比較においては、アスリート群の方が対照群より有意な活動の増加を示した領域は、運動前野、帯状皮質、視覚野、小脳皮質外側半球部であり、対照群の方が有意な活動の増加を示したのは楔前部であった。
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