本年度は,剣道における二者間距離の時系列および,サッカーの試合における選手とボールの動きに関するデータの可視聴化を行った. まず,剣道では打突に至るまでの一度の攻防における二者間距離,および二者間距離の変化を状態変数として,その時系列から,二者間距離が詰まる瞬間の値を用いて,リターンマップを描き,そのリターンマップ上の点の推移を線形関数として近似するとともに,二者間距離および二者間距離の変化の時系列に合わせて,リターンマップを動かす動画を作成した.さらにこの動画に効果音として,実際の打突の音を加え,実時間で動画を動かすようにした.二者の動きの二次元平面上の動きと合わせ,対人のダイナミクスを表現することができたと考える. また,サッカーに関しては,全選手の位置を基にガウス分布で圧分布を作り,二つの相対するチームの圧の符号を正負に分けることによって,各選手の圧分布を足し合わせることによって,ピッチ上での両チームの優勢領域を表した.さらにこの個々の圧分布の変曲点を変更することによって,最適な変曲点を求め,両チームの間に一本の境界線が引けることを確認した.この境界線を前線と呼び,この前線の動きとボールの動きとの関連を調べた.その結果,前線はピッチの長軸方向の約1/4,すなわちペナルティエリア付近の間を移動し,前線がペナルティ付近に来たときに,ボールがこの前線をまたぐように動くと攻撃側のチャンスになることが明らかになった.このことは,前線という表現方法が,サッカーという集団ダイナミクスの状態を表す変数として適切であると考えられた. 以上,対人・集団ダイナミクスの可視聴化を通して,それぞれのダイナミクスにおける状態を表す集合変数を記述することができた.しかしながら,さらにこの集合変数を変化させ,秩序形成を行っている変数の同定が今後の課題である.
|