【目的】ごく最近、myf 5遺伝子を発現する骨格筋前駆細胞から褐色脂肪細胞が分化することが発見され、転写調節因子であるPRDM16の制御により調節されることが明らかとなった。本研究では、運動は骨格筋前駆細胞から褐色脂肪細胞への運命決定を調節できるのか、という仮説を検討することを目的とする。 【平成22年度の結果】運動による骨格筋細胞から褐色脂肪細胞への分化能を検討するためには、ポジティブコントロールとの比較が重要になる。寒冷曝露は、長らく褐色脂肪細胞の機能を検討するツールとして用いられてきた。すなわち、寒冷曝露は褐色脂肪組織の血流量や血中カテコールアミン量の増加などを含む運動と類似した生理的変化を生ずる。そこで本年度は、寒冷刺激による骨格筋細胞の褐色脂肪細胞化について検討し、運動による影響を評価するための基礎データの収集を行った。マウスを通常温度で飼育するコントロール群と寒冷曝露群(4℃)とに分け、腓腹筋、ヒラメ筋、長母指伸筋、肩甲骨周囲骨格筋、直腹筋、後背筋を摘出し、β-actinの発現を基準として脱共役タンパク質-1(UCP-1)、BMP7、PRDM16、PGC-1α、Cidea、Elov13、PPARγのmRNA発現について検討した。褐色脂肪細胞化の指標であるUCP-1とCidea mRNAの発現は肩甲骨周囲骨格筋で観察された。両者の発現は寒冷曝露で有意に増加し、褐色脂肪細胞化への誘導を調節するBMP7、PRDM16、PGC-1α、PPARγ mRNAの発現増加を伴っていた。すなわち、寒冷曝露はさまざまな転写調節因子群の発現変化を介して肩甲骨周囲骨格筋の褐色脂肪細胞化を強く誘導することが確認された。この結果は、ランニング運動や水泳運動のポジティブコントロールとしての意義があるであろう。これらを踏まえ、次年度は運動の種類や強度の変化の検討や、細胞株を用いたin vitro実験をとおした詳細な検討を計画している。
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