研究課題
【目的】褐色脂肪細胞は、熱産生機構を介したエネルギー消費能を有する。myf5分子を発現する骨格筋前駆細胞は転写調節因子であるPDRM16の活性化に伴い褐色脂肪細胞へと分化する。さらに、乳幼児の全身に発現する褐色脂肪細胞は成人でも活性化した状態で存在することなどが報告され、褐色脂肪細胞の機能を介した抗肥満療法の確立が期待されている。本研究では、肥満療法のツールとして汎用されてきた運動が、PRDM16を中心とした褐色脂肪細胞化への分化機構に及ぼす影響について検討することを目的とする。【平成23年度の結果】平成22年度は、褐色脂肪細胞の機能を検討するツールとして用いられている寒冷曝露によって、肩甲骨周囲骨格筋群(僧帽筋・棘下筋)では褐色脂肪細胞化のマーカー分子であるUCP-1やCideaなどのmRNA発現が著しく増加することが明らかとなり、褐色脂肪細胞の機能が亢進する環境では、同部位の骨格筋の一部が褐色脂肪細胞化することが明らかとなった。そこで、平成23年度は、C57BL/6Jマウスを対照群、寒冷曝露群、水泳運動群、走運動群の4群にわけ、in vivoの知見を中心に検討した。UCP-1とPRDM16 mRNAの発現は下肢や体幹の骨格筋群では認められず、肩甲骨周囲骨格筋群(僧帽筋・棘下筋)のみに観察された。対照群と比べて、寒冷曝露群と水泳運動群はPRDM16のmRNAとタンパク質の発現が有意に増加したが、走運動群に有意な変化は生じなかった。同様に、PRDM16機能の補助因子であるC/EBP-βやPGC1-αmRNAの発現や、PRDM16の活性化に必須なC/EBP-βとのタンパク質間の結合も寒冷曝露群と水泳運動群で有意に増加し、この変化はUCP-1やCideam RNA発現の変化と一致した。これらの結果から、水泳運動は僧帽筋・棘下筋における褐色脂肪細胞化機構への修飾能を有することが明らかとなり、水泳運動は褐色脂肪細胞化を標的とした新たな肥満療法に有用なツールの1つとなることが示唆された。次年度は、DNAアレイを用いた遺伝子発現の網羅的な検索や細胞株を用いたin vitroの解析をとおして、寒冷曝露群と水泳運動群の違いについて詳細に検討することを計画している。
2: おおむね順調に進展している
水泳運動は肩甲骨周囲骨格筋群の褐色脂肪細胞化を促すことが認められ、これは既報のUCP-1、PRDM16、C/EBP-β、PGC-1αなどを介した褐色脂肪細胞化の分子挙動と一致することを観察している。これまでの研究結果は、本研究課題の目的を支持するものである。
水泳運動による褐色脂肪細胞化は、寒冷曝露刺激によって惹起される褐色脂肪細胞化調節分子のmRNA発現の奪動変化と類似する点が多く認められた。しかし、両者におけるこれら分子の発現量には差がみられ、単に水泳運動が寒冷曝露刺激をミミックしているとは考えにくい。そのため、水泳運動や寒冷曝露刺激に特異的に誘発される劣子を検索し両者間で比較検討することは、水泳運動由来の褐色脂肪細胞化のメカニズムの解明に極めて重要であると思われる。今後は、DNAアレイ解析やプロテオミクス解析を用いた網羅的な解析結果を基に、変化の認められた分子について細胞株を用いたin vitroの系で再現させることによって、水泳運動に誘発される褐色脂肪細胞化のメカニズムを検討する予定である。
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