研究概要 |
我が国において小児期の肥満と成人期の体型や生活習慣病との関連を同一個人で検討した報告は極めて少ない。本研究では過去に肥満を主訴として医療機関を受診した小児の診療記録をもとに予後調査を実施し、1)小児期からの肥満継続・解消の要因や成人期の生活習慣病との関わりについて、また、2)希望した対象者に再度医療機関を受診してもらい、成人期における生活習慣病のリスクを検討することを目的とした。 診療記録の残っている908名に対し、現在の形態や健康度、栄養摂取状況を尋ねる調査紙を送付した。有効配布数646通のうち回収数は206通であり、回収率は31.9%であった。対象者の平均年齢は初診時10.4±2.6歳、予後調査時34.1±4.4歳であり、初診時からの平均経過年数は23.7年であった。初診時の平均肥満度は46.5±19.4%であり、予後調査時の平均BMIは28.9±7.0kg/m^2であった。小児期に軽度肥満で予後調査時に肥満(BMI≧25kg/m^2)と判定された割合は60.7%(平均BMI28.4±8.5kg/m^2)、同様に中等度肥満→肥満で60.9%(平均BMI27.2±5.5kg/m^2)、高度肥満→肥満で84.8%(平均BMI31.8±7.4kg/m^2)と小児期に肥満の程度が高かった者ほど移行率が高く、全体としては69.4%が肥満を継続していた。予後調査時における非肥満群と肥満群を比較するとエネルギー摂取量など栄養面に有意差は認められなかったが、運動実践者の割合は肥満群で低く(49.0%vs23.6%,P<0.01)、小児期からの身体活動量の多寡が肥満の継続と関わる可能性が示唆された。 再度医療機関を受診した者(21名)の平均年齢は34.7±3.9、BMIは31.4±8.4kg/m^2であり、7名が肥満を解消し、14名が肥満を継続していた。継続群は解消群に対し、皮下脂肪面積、内臓脂肪面積、GPT、尿酸、HbAlc、インスリンが有意に高く、HDL-Cは有意に低値を示した。以上の結果より、小児期の肥満は成人期へトラッキングする可能性が高く、生活習慣病との関わりも深いと考えられた。一方、肥満を解消することにより、リスクは低減することから、早期の対応が必要であると考えられた。
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